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「ジェファーソン・ボトル」の酔えない事情

Jan 10, 2012 by weblogland
『世界一高いワイン「ジェファーソン・ボトル」の酔えない事情』を読みました。
お客様が暮れに貸して下さった本です。
著者はアメリカ人のベンジャミン・ウォレス訳者は佐藤桂です。

アメリカ草々期の大統領トーマス・ジェファーソンが購入したワインが200年ぶりにドイツで発見され、それが法外な価格でワイン・コレクターに転売された話です。TH.J.のイニシャルが刻まれた1787ラフィットになんと邦貨で約3000万円!オークションの老舗クリスティーズを舞台に並み居る評論家やシャトーを巻き込み、世界的なアメリカの富豪に売られた話です。
結果的には誰もが怪しく思っていながら、騙された訳です。現実にそんなに古いラフィットは飲んだ人がいないし、とは言え1787年にラフィットは確実に存在しており、しかも今同様にボルドーワインの王者として君臨していました。
しかも初めてフランスワインを愛したアメリカ人大統領トーマス・ジェファーソンの買ったワインとなればアメリカのコレクターは飛びつくのは必至。歴史伝説の塊です(笑)。売り方買い方の両方の利害は一致。その上誰もブレーキはかけません。あとは価格だけですから、付いた価格も常識外れです。

競売のあった1985年にジェファーソンボトルの真贋に否定的だったのはジェファーソンの地元モンティチェロのジェファーソン研究家だけでしたが、それでも反論の余地があり決定的な判断をしたとは言い難かったのも不幸を助長しました。その後、放射線測定など様々な科学的立証検証も行われましたが、どれも偽物と立証するに到りませんでした。
最終的に真贋は線刻が当時の円盤型線刻機ではなく、現代の歯科医用ドリルによることが線刻職人によって確認されてからでした。古いアンティーク瓶を買って、それにTH.J.1787 Lafitteと刻んで古いワインを詰め、細工した古いコルクを打ち直したようです。

たとえまずくて飲めない代物であっても、本物であればコレクターは満足していたところが、コレクターたる由縁。私なら空のボトルでも本物なら十分な記念品ですが(笑)。ましてや200年前の赤ワインは飲める代物でないことは明白だと思いますが…。価値がよく解りません。
ジェファーソンも大統領を辞めたあと晩年はグラン・ヴァンではなくラングドックの赤ワインを取り寄せて愛飲したようです。もちろんモンティチェロで栽培実験したワインも飲んだのでしょうが、『美味しいレベル』になるにはその後150年ほどの時が必要でした。
うーん。
売る方も売る方ですが、買った方も買った方のような気もしますが。でも嘘はイケませんね!騙すだけ騙したあとに「嘘でした!ゴメン!」と言えば世紀の笑い話で済んだのでしょうが(笑)、完全な詐欺ですから許されません。でもこれはワイン流通の真実でもありますから、他人事ではありません。我々は、実際贋物にあたることもありますから注意しなくてはなりません。

この本を読んだ後、『永仁の壷事件』を思い返しました。現代の陶工 加藤唐九郎が巻き起こした贋作事件です。私の師匠、乙益重隆先生から伺った話なのですが。
先生「あの壷が贋作なのを一番先に見破ったのは大場磐雄先生なんだ。並み居る美術評論家は唐九郎の腕の良さに騙されたが、大場先生は一発で見抜いたんだ。壷の底の刻字を見てそれが現代の釘で刻まれたことを見抜いたんだ。往時の釘と現代の釘は造り方が違うから線刻した線の跡が違ってくるんだ。」
あと、こんな事も言ってくださいました。
乙益先生「古美術品のコレクターになってはダメだよ。本物が見たかったら博物館や美術館に行けば良い。欲が出ると正しい判断が出来なくなる。そうなったら研究者としては失格だ。」
肝に銘じなければ。

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